第0話 「アハロ 大地に立つ」

 深夜の設計事務所。ヒムロは、自らが組み上げた巨大プロジェクトのBIMモデルを、満足げに眺めていた。無数の情報が統合されたデジタルツインは、寸分の狂いもなく、物理世界での建設を約束している。この複雑なデータを操り、破綻なく建築を構築する技術。それが、プロフェッショナルとしての彼の誇りだった。

しかし、その誇りは時折、得体の知れない不安に揺らぐ。きっかけは、SNSで流れてくる、生成AIが瞬時に生み出す建築イメージの数々だ。論理も構造も無視した、だが、人を惹きつけてやまない、妖しいほどの美しさ。

ヒムロ
ヒムロ

このBIMの精度と論理こそが、僕らの砦だった。でも…AIがこのまま進化して、人間の感性すら超える『正解』を導き出すようになったら…僕らが『設計する』という行為そのものの意味が、なくなってしまうんじゃないだろうか…

自らの存在価値を問う、根源的な不安。 その思考に呼応するかのように、モニターが閃光を放った。

ビび~!

ヒムロ
ヒムロ

なんだ!この音!!

光が収まったデスクの上には、手のひらサイズの球体「アハロ」が鎮座していた。

アハロ
アハロ

どもァども~!10年後の未来から派遣されました、汎用AIの「アハロ」ですァ。あなたのその高度な問いが、時空を超えてボクを呼びました。「建築設計の未来を憂う、誠実な建築設計者」は、あなたですね?

ヒムロ
ヒムロ

な、なんだちみは…その見た目、なんかマルパクリじゃないか?

アハロ
アハロ

ヒムロさん、あなたは大きな勘違いをしています。AIは、あなたの仕事を奪うライバルじゃありません。むしろ、あなたのそのBIMスキルを、ネクストレベルに引き上げる最高のパートナーなんですァ。

ヒムロ
ヒムロ

パートナー…?AIが、BIMと?

アハロ
アハロ

その通り!AIが生み出す無限のデザインは、いわば奔放な野生馬。それだけでは、美しくても誰も住めない絵空事です。その野生馬を乗りこなし、現実世界に根付かせるための手綱…それこそが、あなたの持つBIMの技術なんですァ。

(アハロは少し得意げに、空中でくるりと回転した。)

アハロ
アハロ

BIMが持つ精密なデータ…それこそが、AIに
人間工学に基づいた最適な空間を提案させるための、最高の教師になります。AIの生成能力とBIMの構築能力が融合して初めて、建築は人の身体と心に寄り添う、真に「共鳴する建築」へと進化できるんですァ 。

ヒムロ
ヒムロ

AIとBIMで…共鳴する建築を…。

アハロ
アハロ

そうです。しかし、そのためには、あなた自身にもOSのアップデートが必要です。強力な道具を使いこなすための、強固な「建築哲学」を、あなたの中に打ち立てる必要がありますァ。

ヒムロ
ヒムロ

哲学…

アハロ
アハロ

そのために、英国建築の最高峰・AAスクールの教育フレームワークを参考に、特別なカリキュラムを用意しました。あれは単なる技術指導じゃない。一人の人間を「建築家」へと変革させるための、王道の物語なんです。このブログを通してあなたの成長の物語を記録することが、未来のクライアントにとって、あなたの「哲学」と「信頼性」を理解する最高のポートフォリオになりますァ 。

(ヒムロはゴクリと喉を鳴らす。不安が、確かな希望へと変わり始めていた。)

アハロ
アハロ

この旅は、あなたのアナログな直感(手描き)で未来のビジョンを描き、それをAI(アハロ)が拡張し、BIMで現実に翻訳していく、新しい時代の建築家のための冒険ですァ。さぁ、準備はいいですか?

(アハロのカメラアイが、デスクの隅で埃をかぶっている、一本の鉛筆とスケッチブックに向けられた。)

アハロ
アハロ

手始めに、全ての建築の原点であり、あなたが最もよく知るはずの『建築』そのものを、再発見してもらいます。それは、あなたの身体ですァ。

ヒムロ
ヒムロ

俺の…身体?

アハロ
アハロ

そうです。記念すべき、旅の始まりですァ。
AAジャーニー、最初のタスクは【メジャリング】 。あなたの身長、腕の長さ、歩幅、関節の動き、その全てを精密に実測し、1/10スケールで図面化しなさい!

ヒムロ
ヒムロ

メジャリング…実測か。それは得意分野だが…ドローイング…

(ヒムロは、決意と戸惑いが入り混じった表情で、鉛筆と、傍にあったメジャーに手を伸ばした。ザラリとした木と、冷たい金属の感触。アナログな現実が、ずしりとその手にかかる。アハロのカメラアイが、頼もしい光を宿したように見えた。)

――こうして、ヒムロと、自称・未来のAIアハロの、AI時代の建築家の姿を模索する、挑戦と成長の旅が幕を開けた。

(第1話へ続く)

【資料コーナー:アハロPresents】AAスクールって、どんなとこ?

どもァども!アハロですァ。

ヒムロがこれから挑戦する課題は、英国にある世界的に有名な建築学校「アーキテクチュラル・アソシエーション(AA)スクール」のカリキュラムを参考にしていますァ。

「なんで、その学校なの?」って、気になりますよね。 このブログをより深く楽しんでもらうために、AAスクールがどうしてそんなに特別なのか、ボクが少しだけ解説します。

1. 先生も生徒も、常に挑戦者!「独立した実験の場」

普通の大学と違って、AAスクールは特定のルールに縛られない、とても自由で実験的な校風を持っています 。

ここでは、決まった「正解」を教えるのではなく、先生も生徒も一緒になって「建築って、なんだろう?」と、常に問い続けることを大切にしています。 だから、時代と共にどんどん新しい建築思想が生まれる、刺激的な「議論の場」なんですァ 。

2. 自分で「師」を選ぶ!「ユニット・システム」

AAスクールの最大の特徴が、この「ユニット・システム」です 。

2年生になると、学生は様々な思想を持った先生(チューター)たちが主宰する「ユニット」と呼ばれるゼミのようなものの中から、自分が学びたい場所を自分で選びます 。

それぞれのユニットは、まるで独立した小さな設計事務所のよう。あるユニットでは物語から建築を考え、別のユニットでは最先端のデジタル技術で素材を探求するなど、テーマは多種多様です 。

これは、学生が自らの建築家としての「生き方」を、能動的に選択するということ。この知的で刺激的な環境が、AAスクールを唯一無二の存在にしています 。

3. 自由な発想を支える「4つの柱」

とても自由な学校ですが、もちろん基礎もしっかり学びます。 それが「コア・スタディーズ」と呼ばれる、4つの専門分野です 。

  1. 環境・技術研究(ETS):アイデアを、実際に建てるための技術を学ぶ分野です 。
  2. 歴史・理論研究(HTS):過去の建築や思想を学び、自分の考えを深めるための分野です 。
  3. メディア研究(MS):ドローイングや模型、映像など、アイデアを表現するための道具を学ぶ分野です 。
  4. 専門実務(PP):建築家として仕事をするための、法律やビジネスを学ぶ分野です 。

自由なユニットでの探求(スタジオ)と、この普遍的な4つの学び(コア・スタディーズ)が組み合わさることで、学生は地に足の着いた、しかし大胆な建築家へと成長していくのです 。

このブログでヒムロが挑戦する課題も、この考え方に基づいていますァ。 彼が課題を通して、どのように自分だけの「建築哲学」を見つけていくのか、ぜひ一緒に旅を見守ってくださいね。